日本で最初の有料道路はどこ? (その2)

2011年02月09日 21:47

 前回「日本で最初の有料道路はどこ?(その1)」でも紹介したとおり、全国には「我こそが日本初の有料道路」という路線が乱立している状態ですが、ひとまずは日本における有料道路制度の沿革を追ってみたいと思います。
 なお、ここ言う「有料道路」は「自動車通行可能な道路」に限定せず、現行法で言う「歩行者」「軽車両」「原付」「自動車」のいずれかが通行可能な道路のうち有料の道路を指す…という前提で考察していきます。
 
(1)近代以前
 古代から近世までの間は、有料の橋梁・関所などが各地に存在し、通行料・税の徴収が発生していました。これらも有料道路とみなせば、際限なく過去にさかのぼってしまうため、明確な「日本初の有料道路」というものは探しづらい状態です。文献資料等に基づき「関所or橋梁を設置して賃料を徴収した」という記録を探し、その中で一番古いものが「確認できる日本初の有料道路」という扱いとなります。ただし、あまりにも面倒なので、ここでは検討しません。

(2)明治四年太政官布告第648号(1872年)
 近代以降に限定し、有料道路の定義を「近代法令に基づいて設置を認められた有料道路」としてみます。
 この場合、1872年12月14日の太政官布告第648号「治水修路等ノ便利ヲ興ス者ニ税金取立方ヲ許ス」が有料道路に関する法令の最初のものです。この法令により、道路修築や橋梁架設などを行った者が、その工事費に応じて一定の年限の間料金徴収することが認められることとなりました。
 この法令に基づき建設されたものとしては先述の箱根国道(1875年、現・神奈川県箱根町)が最初のようです。有料橋梁としては大井川橋(1876年、現在の静岡県島田市)が最初のようでした。

(3)旧道路法(1919年)
 1919年に道路法が制定され、明治以来、道路法制が複数の諸法令に断片的に規定されている状態であったことから、これらを体系的に統合した道路法(いわゆる旧道路法)が1919年に制定されました。この時の旧道路法では、有料渡船・橋梁の設置に関する規定が盛り込まれ、地元有志の出資などによる有料渡船・橋梁が続々と誕生することになります。
 しかしながら、あくまでもこのときに定められたのは有料の「渡船」と「橋梁」のみ。河川が絡んでいない道路については、この旧道路法には特段の規定がなく「公道は無料」と言う原則にたっていたため、有料の私道を建設する場合は先述の太政官布告等に基づいて建設許可を受けているがしばらく続きます。
 この旧道路法に基づく有料渡船・有料橋梁は全国に多くの事例があると思いますので、ここでの検討は省略します。

(4)自動車交通事業法(1931年)
 1931年に自動車交通事業法が制定されます。この法令に基づき、いわゆる営利事業としての有料道路事業が認められることとなりました。現在の「自動車運送法」にあたります。
 イメージとしては、各地にある観光用有料道路が該当する感じです。古い路線では、1931年供用開始の京浜急行自動車専用道路(神奈川県鎌倉市)、1933年開通の鬼押ハイウェイ(群馬県・長野県)が挙げられます。京浜急行自動車専用道路は、内務省の建設免許を受けたのが1926年11月とのことですが、おそらくこれは「旧道路法」ではなく「太政官布告」に基づく免許と思われます。その後、1930年には供用開始となっていますが、供用開始の登記自体は翌年の1931年になっているとのこと。自動車交通事業法(制定は1931年、施行は1932年)の適用もにらんでの対応だったのでしょうか…。

(5)道路運送法(1951年)
 1931年に制定された自動車交通事業法は、1951年に制定された道路運送法へ引継がれました。自動車交通事業法に基づき供用開始した現存路線は道路運送法の適用を受けています。道路運送法に基づく有料道路は、以下の道路法体系に基づく有料道路とは別の枠組みとなって現在まで併存していくことになります。
 まぁなぜ道路法体系の道路と道路運送法体系の道路が併存したかというと、前者が建設省所管、後者が運輸省所管という縦割り行政の賜物という裏話があるんですが…。

(6)新道路法・旧道路整備特別措置法(1952年)
 戦後に入り、1952年に道路法(いわゆる新道路法)・道路整備特別措置法(いわゆる旧道路整備特別措置法)が制定されます。
 旧道路法では、道路管理者以外の者(地元有志など)が有料渡船・橋梁を設置することを認めていましたが、新道路法では「道路無料公開の原則」が強化されて有料渡船・橋梁の設置は道路管理者(実質的に県or市)のみとなり、設置要件も厳しくなりました。
 その一方で旧道路整備特別措置法では、限られた財源の中では道路整備を行うのが困難という考えから「道路無料公開の原則」の例外として、「利用者が著しく利益を受ける」などの要件を満たした場合に限り特別に有料道路が認められることとなりました。
 この旧道路整備特別措置法に基づく有料道路としては、1953年開通の参宮有料道路(三重県)が最初のようです。

(7)新道路整備特別措置法と日本道路公団(1956年)
 1956年には道路整備特別措置法の新法(いわゆる新道路整備特別措置法)が制定され、日本道路公団が設立。このときに、参宮道路(1953年供用開始)や鳴門フェリー(1954年供用開始)、R1戸塚道路(1955年供用開始)などの主要な有料道路が日本道路公団に引き継がれることとなりました。
 更に、新道路整備特別措置法制定の翌年である1957年には高速自動車道路法が制定され、名神高速道路を高速自動車国道の指定第1号としたのが同年の8月30日のこと。その後、1963年に日本で最初の高速自動車道である名神高速道路第一期区間が開通したのは周知の事実と思います。




これらに基づくと、「日本初の有料道路」は以下のような整理となります。

1 近代以前の有料道路
 トンネルとしては、作者KAWASAKIが確認した限りでは1750年or1763年開通の「青の洞門」(大分県)が有料トンネルの最古とみられます。その他の道路・橋梁については、だいぶ古い時代までさかのぼれると思いますので、ちょっとわかりません。

2 近代以降の有料道路
 1872年の太政官布告に基づく有料道路としては、1875年の箱根国道(神奈川県)が最初とみられます。橋梁としては1876年の大井川橋(静岡県)が最古のようです。

3 1931年の自動車交通事業法に基づく有料道路
 自動車交通事業法に基づく有料道路としては1931年供用開始の京浜急行自動車専用道路が最古です。なお、現行の「自動車専用道路」とは違うものではありますが、一応は「最古の自動車専用道路」と言うこともできます。

4 現行道路法(昭和27年6月10日法律第180号)体系に基づく有料道路
 現行道路法体系に基づく有料道路としては、旧道路整備特別措置法により1953年に開通した三重県の参宮有料道路(R23)が最古です。
 なお「有料の自動車専用道路(現行法に基づくもの)」としては、東京-千葉県の京葉道路(R14)が最古ですが、開通したのは1960年、日本初の自動車専用道路に指定されたのは1961年となるため、開通日と自動車専用道路指定日でズレが生じることに留意する必要があります。
 日本初の高速自動車国道は、もちろん1963年開通の名神高速道路です。ただし、「高速道路=高速自動車国道+高速自動車国道以外の自動車専用道路」と定義した場合、「日本初の高速道路」は名神高速道路ではなく、日本初の自動車専用道路である京葉道路が該当することになります。
 



 「我こそは日本初の有料道路」という路線が乱立している状態ですが、何をもって有料道路と主張するのかをしっかり条件付けしないと、正確な表現とはなりません。「日本初の自動車専用道路」を「日本初の有料道路」と混同して、「日本初の有料道路は京葉道路」としてしまっている著作も時たま見られます。
 道路運送法に基づく有料道路と道路整備特別措置法に基づく有料道路が併存しているなど面倒くさい法体系がそもそもの原因とも言えますが、「日本初の有料道路」というときには以上のような注意が必要であると考えます。


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